ドコノモリ

うきやま山のすそ野にて


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詩人

ドコノモリ
ミッケくんは、木の洞のおうちに住んでいます。

晴れた日には、朝早くから小鳥たちが、「ミッケくん、おはよう、おはよう」とおうちの周りでさえずります。
木の洞の大きな窓からは、真っ青な空が見えます。

ミッケくんは、元気に飛び起きました。
浮き山さんが戦いの止まない国から引っ越してずい分長い時間が過ぎました。

ミッケくんは、森のはずれ森の入り口まで何度も行って、誰かいないかなと捜してみましたが見つかりませんでした。
プーニャは、ドコノモリの一番高い木に上って、そこから上はふわりと浮かんで、周りを見てみました。

すると、海原が地平線の向こう側までずっと広がっているのが分かりました。
誰もいない、入ってこない・・・。
ミッケくんは、ちょっとがっかりしています。

実は、あの霧が深かった日、浮き山さんがドコノモリの子どもたちを眠らせて出発した日、森のはずれで見た丈の長い編み上げ靴の人のことを思いだしていたのです。

ミッケくんは、小川に行って顔を洗いました。
心の中の霧がさっと消えるような冷たい水でした。
それから・・・、ごはんをたべないで、小川のほとりをぶらぶら歩くことにしました。
今の時期は、グミやすぐり、木苺などがいっぱいなっているので、それを食べようと思ったのです。

小川のそばを歩いていると、川の涼やかな声がいっぱい聞こえます。
勢いよく流れていく時はちよっと甲高くて、暗いよどんだ場所に来るとひそひそ声が、途切れ途切れに聞こえます。
「川ガラスはごはん食べてるかな・・・?」ふとミッケくんは思いました。
そう・・・、あのカワガラスのことです。

ミッケくんが初めてカワガラスに会った時のこと。
そりゃあもう、腰が抜けそうになるほどびっくりしたものです。
だって、ミッケくんが川の中に入って川底をのぞいてみたら、鳥が歩いていたのですから。
水の中を歩く鳥ですよ!

「ひぇーっ!こんなことってあるかよーっ!」と、思わず叫んでしまったのでした。
そしたら、カワガラスがぷわっと水面に顔を出して、笑ったのです。
「子ども!子ども!知らないこといっぱい!カカカカカー・・・」って。

ミッケくんとカワガラスは、しばらくの間お互いをじろり、ギロリと見ていました。
それから・・・、何ということもなくおしゃべりして、友だちになったのです。
言いたい放題言うのも、友だちですからね。

そのカワガラスに、また会いたいなぁ!と、ミッケくんは水際まで降りて行って見たのです。
川の流れて行く音が大きく聞こえて来ました。
段差のあるところから水が勢いよく落ちて流れて行きます。
カエデの実が、クルクルと回りながら水に落ちて、あっと言う間に流れて行ってしまいました。

ミッケくんが川の中に入った時、流れの中にある大岩の上に、何かがじっと座ってこちらを見ているのに気がつきました。
ミッケくんはびっくりして、流れの中で立ち止まりました。

大岩の上に座っていたのは人間でした。
ぼうぼう頭の痩せた男の人でした。
男の人は、しばらく何も言いませんでした。

でも、まっすぐにミッケくんを見つめていた眼が、やがて嬉しそうに輝いたのです。
「やあ、こんにちわ。こんな森深いところで小さい人に会うなんて、私はとっても嬉しいよ。」
そう言って、男の人は立ち上がりました。

思っていたより背の高い人でした。
そして、傍らに置いてあった丈の長い編み上げ靴を持って、ミッケくんに近づいて来ました。

ミッケくんは、ドキドキしました。
男の人はにっこり笑って手をさし出すと、「はじめまして。私は、クマオと言います。」
ミッケくんも「ボク、ミッケです。」と言って、手をさし出しました。
「ミッケくん、どうぞよろしく。」
そして二人は握手したのでした。

クマオが言いました。
「ミッケくん、私の話しを聞いてくれないか?」
ミッケくんは、黙って頷きました。

「私はね、歩くのが好きなもので、毎日歩いていたのだが・・・・。いつの頃からか、道を誰も歩いていないことに気がついたのだよ。」
「私の国の道は、今では自動車のためにあるのだと気が付いた!」
「沢山の自動車が走っている道。沢山の兵隊を乗せて、武器を乗せて、武器を造る材料を乗せて、自動車が走り回っている道ばかり・・・。」
「道の端を歩いている人は、もう誰もいない。私一人しかいないのではないかと思い、ぞっとしてしまった。」

「私は詩人だ。詩人の務めを、私は果たして来た。けれど、心を込めて詩を作れば作るほど、私の仕事の報酬は減って行ったのだよ。」
「そして食べるものを買うお金もなくなってしまってね。身体は弱るばかりだった。これは、先細りの道だ。」
「私は、町の中をさまよった。もう町の中に仕事があるはずもなく、私は山道がたまらなく恋しくなった。」
「おなかがへっていたけれど、私は町をはなれて歩き出したのだ。」

「どのくらい歩いたのか、どうやってあの茨の前にたどりついたのか、何も覚えていない。」
「茨の向こうにある世界へ、私は行ってみたかった。」
「けれど、もう疲れてしまって、茨を押しのける力は残っていなかった!」
「私はすっかり元気をなくして、引き返したのだ。」
「そして転んで、起き上がれなくなって、そのまま眠ってしまった。」
「その時に、声を聞いたのだよ。『私の近くへおいで・・・』と。」

「そして、私はここへやって来た。」
「・・・ここは、不思議な所だ。」
「教えておくれ。この森のことを。」

ミッケくんは、ドコノモリのことをクマオに話しました。
ドコノモリは、浮き山さんの裾のに広がっている森で、浮き山さんが引っ越す時はいつも一緒に移動していること。
浮き山さんは、引っ越すたびに新しい仲間を招き入れていること。
ドコノモリの中には、子育ての樹のお母さんとヤーヤのような不思議な生き物や、「いのちのわく所」などの場所がいくつもあることを話しました。

クマオは、ミッケくんの話しを聞きながら驚いたり考え込んだりしていました。
「本当に、本当に、何て言ったら良いのか・・・。」
「この眼で、この森の奥深さと真実を見たいものだ!」

そこでミッケくんは、クマオを案内してドコノモリ巡りをすることにしました。

つづく
第11回 2013.09.25

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